February 06, 2006

『竜の森の眠り姫』(Macintosh版CD-ROM)

 マックで読むマンガ、エキスパンドコミックブック!として久しぶりに新作を発表した嶋田 勇氏の「竜の森の眠り姫」をご紹介します。



著 者:嶋田 勇
価 格:1,050円(税込)


■近年報道されるニュースには未成年の犯罪、事件を報道する暗い話題が多い。いずれも普段は表面にあらわれず、伺い知ることのできない「心の闇」の部分が噴出した結果、引き起こされた犯罪のようである。
そんなとき、私はひとりの作家の言葉を思い出していた。

「人間は、様々な苦しみや不安を抱えながら、死ぬまで生きなければなりません」

今回ご紹介する、「竜の森の眠り姫」の作者、嶋田 勇さんです。

彼を知ったのは、エキスパンドブック横丁に出品した作品、妖精詩画集「バンシー(Banshee)」というタイトルの電子絵本だった。この作品は十二編の詩で綴られる妖精の世界を描いたものだが、その独特のキャラクター描写が私はとても気に入っている。何故か?と問われると、それは「心の内面」を描いているからだと答えたい。
幻想的な、と一言では表現しきれないものが、嶋田さんのイラストを見ていると複雑な感情が沸き起こってくる。色使い鮮やかな元気なイラストがあるかと思えば、おどろおどろした背筋の寒くなるイラストもある。これはまさに、人の心の内面を描いていて、自分の心をディスプレイに映し出す鏡となっているのだ。
この作品のあとがきで、嶋田さんはこうに書いている。


「(イラストを描き)はじめめのころは、妖精達の奔放で楽しげな姿を、イラストに描くことそのものが楽しかったのですが、それと対比する形で、私たち人間の悩みや、生きることのつらさを考えると、むしろやりきれない思いと悲しさばかりが目につくような気がしてなりません。

(中略)
 人の魂は、この世を去る瞬間、バンシーの呼ぶ声を聞く瞬間、何を感じるのでしょうか。この世を離れる悲しみに身もだえるのでしょうか。それとも、あの世へ向かう喜びにうち震えるのでしょうか。そんな奇妙な感覚にとらわれながら、"バンシー"の詩は生まれました」


当時、嶋田さんは病気で入院生活を送っていたそうで、そこで描きためたイラストに詩をつけるという作業で作品を作っていた。その入院という特殊な環境下のためか、妖精という視点より人間の側に視点を置いて詩を書いたために、人の内面を描いた暗い作品になっていると評している。

「人間は、様々な苦しみや不安を抱えながら、死ぬまで生きなければなりません」

この現実を、いかに伝えるか。理解してもらうか。
インターネットの掲示板に犯行声明文を掲載した未成年の少年。その同じインターネットの上で電子絵本を販売している私たち。
どこかに接点は無いものか、この作品の存在を知ってもらうためにやるべきことがたくさんあると思う。



 ところで、嶋田さんはここしばらく新作の発表を行っていなかったが、この「竜の森の眠り姫」で久々に新作を私たちに披露してくれた。キャラクター描写や、ストーリィ展開にはさらに磨きがかかり、1ページ、1ページを慎重にクリックして見たくなる。とても美しい「マンガ」になっている。
しかし、私はマンガというよりもやはり「絵本」として作品を評価したい。
「伝説」「死闘」「苦悶」「悦楽」の四章から成る本作は、そのものが人の一生を表現していると言ってもよいだろう。
本作では究極の"人生の選択"を最後に描いているが、これは「貴方ならどうするのか?」と嶋田さんからの読者への問いかけになっている。ぜひ本作をご覧いただきたい。

もうひとつ、電子本の制作テクニックの面で評価を加えるとすれば、コマ割り・送りといったものがエキスパンドブックの"注釈機能"をつかってうまく処理されている。
注釈といえばテキストのみによるものと考えてしまいがちだが、嶋田さんはこの機能をうまく使って平面のディスプレイ上に躍動感を与えている。
これを見るだけでも価値がある。
(文責 CyberBook Center店長)

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Posted by dearbk at 23:30:00 | from category: 電子本紹介-CD-ROM版- | DISALLOWED (TrackBack) TrackBacks
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