April 17, 2006

電子絵本『案内人』(Macintosh版CD-ROM)

3分もあれば読めてしまうショートコントの電子本作品本作はタイトルにある"絵本"のとおりパソコンの画面の上で読める電子絵本だすぐに読めてしまうから内容がつまらないということではない絵本といえばお父さんお母さんに読んでもらうもの...と懐かしく昔を思い出してみるのだが本作は"本"自体が朗読をしてくれる
 電子絵本『案内人』(Macintosh版CD-ROM)




著 者:Kusu Kusu Studio.
価 格:735円(税込)


■3分もあれば読めてしまう、ショートコントの電子本作品。本作はタイトルにある「絵本」のとおり、パソコンの画面の上で読める「電子絵本」だ。
すぐに読めてしまうから、内容がつまらないということではない。そこは「電子絵本」だから仕掛けがある。
絵本といえば、お父さん、お母さんに読んでもらうもの...と懐かしく昔を思い出してみるのだが、本作は"本"自体が朗読をしてくれる。


ページをめくる度に男の声でナレーションが始まるのだ。個人的には女性の声でナレーションをして欲しかったのだが。
登場人物は、私たちがいつも目にしている非常口のマーク、右方向に走り出している人型のマークだ。この物語の中では、どうやらこのマークは"男性"であるらしいことがわかった。この男性、「非常口男」である彼はあるホテルの建設当時から、ドアの上に貼りつけにされて築40年は経つこのホテルとともにここにいたので、かなりストレスも溜まっていたらしい(笑)。ある日、彼はその貼りつけにされていた場所から、思い切って外の世界に出てみた...ショートコントなので、その後の話しの展開もテンポがいい。
また、非常口のマークを主人公に、ストーリーを考え出す着眼点もいい。私も何度かホテルを利用することはあっても、このマークをもとに物語を考え出す発想はできない。

 タイトルが「案内人」というのも、読み終わってみて気がつくところがある。ホテルなど、人が多く集まる場所や建物の中に表示されて、いつも目にしている非常口の案内のための"案内人"としての本来の機能と、ネタをバラすことはできないが物語の中で重要な役割を果たす彼の"案内人"としての働きぶりである。物語がホテルの中で展開することから、このホテルで働く従業員の人たち全ても"案内人"とも呼べる。そうしたいくつかの思いや、考えがあって案内人というタイトルが付けられたのだろう。この絵本を読んでいる間も、電子本自体は読者の案内人そのものであるし。
 ショートストーリーなので少ししか書かれていないが、外の世界に出た彼がホテルの中を歩き回るシーンが、建物内の描写がみょ〜にリアルに感じられた。このホテルでは地下に従業員のための部屋があるらしのだが、そこの女子更衣室では従業員同士のオークションが行われていたり、社員食堂の壁に貼りだされた労働組合のスローガンの文字、そして「蟹やチケットを売ったりしないで」という落書きなど、実際にどこか参考になるものを見ないと書けないようなことだ。制作スタッフにホテルの関係者でもいるのだろうか。
そして、私がふだん利用するホテルも、同じような貼り紙がされているのだろうか。

 すこし余談になるが、私は学生のころに友達と"ラジオドラマ"を作って楽しんでいた。仲間うちでしか完成した作品を披露することはないのだが、いつも録音器材や、録音時の環境もシビアに考えたりして(外からの騒音を拾ってしまっては録音にならないからだ)苦労もあったが、完成してしまえばそんな気持ちもスグにふっ飛んだ。
物語を考えるのもなかなかたいへんだった(笑)。たいていは当時(20年ほど前)流行っていたアニメーションのパロディ作品としてストーリーを考えるのだが、一度ペンを走らせると夜遅くまでノートに向かっていた。翌日は練り上げたストーリーを友達に披露して、話しを直したり付け加えたりする過程も愉しかった。
ラジオドラマは言葉でしかストーリーを伝えられないので、登場人物を演じてもらう仲間にも声優としての演技、というほど凄いものではないが演出も行った。
そんなアマチュアな雰囲気が、この電子絵本に感じられた。手作りの朗らかとした、チョット悪くいえば?ユルい感覚のドラマだが、本作はショートストーリー、ショートコントだ。このくらいが丁度いい。

 最後に残念に思うところを二点ばかり。まず、本作は平成10年にCD-ROMとして制作されたものだが、対応するパソコンがMacintoshのみという点。Windowsパソコンでは本作は読めない。
そして、最初にも書いたがナレーションが男性ということ。登場人物の「非常口男」が男性であるから、その声とナレーションの声がカブってしまってわかり辛い。実際、同じ男性の声でアテられているからわからなくなってしまう。そこに対照的な女性の声でのナレーションを行えば、ドラマの聞き手としての感覚、受け取り方も変わってくるだろうと思う。この点はとても惜しいと思った。
 しかし、いまから4年も前に、朗読を行ったものを一度パソコン上のデータとして作成し、それを電子本で再生するというのは、とても手間の掛かる難しいものであったはずだ。当時の自主出版の電子本にあって、エポックメイキングな一冊であったことに間違いはない。
(文/古野信治@CyberBook Center店長)

Copyright (C) Cyber BookCenter
Posted by dearbk at 23:54:00 | from category: 電子本紹介-CD-ROM版- | DISALLOWED (TrackBack) TrackBacks
Comments
No comments yet
:

:

Trackbacks
DISALLOWED (TrackBack)